彼女には七小町など数々の逸話があり、能や浄瑠璃などの題材としても使われほど有名ですね。
小野小町を材にとる作品を総称して「小町物」ともいわれています。
小町は、その美しさから、多くの男性(貴公子たち)に言い寄られたそうですが、決して隙を見せることのないその姿勢から、性的不能との噂もあり、有名な百夜通い(ももよがよい)では、小野小町に熱心に求愛する深草少将に、小町は彼の愛を鬱陶しく思っていたため、自分の事をあきらめさせようと身体の弱かった彼に「私のもとへ百夜通ったなら、あなたの意のままになろう」と告げるのです。
それを真に受けた少将はそれから小町の邸宅へ毎晩通うのですが、思いを遂げられないまま最後の夜に息絶えたそうです。
中世以降、百夜通いは小野小町の恋愛遍歴を象徴するエピソードとして広く知れ渡りましたが、それは「衰老落魄説話」という後日談とともにであり、能作者たちは老いて乞食(こつじき。被差別民・非人の呼称の一つ)となった小野小町を描く事で、彼女を伝説的な美女から、人生の栄枯盛衰を経た一人の女性に変えたのです。
<小野小町の作品>
歌風はその情熱的な恋愛感情が反映され、柔軟で繊細で、しとやかさの中に華やかさもあります。
「古今和歌集」序文において紀貫之は彼女の作風を「万葉集」の頃の清純さを保ちながら、なよやかな王朝浪漫性を漂わせているとして絶賛しました。文屋康秀・僧正遍昭との贈答歌もあります。
(古今集より)
「花の色は移りにけりないたづらに我が身世にふるながめせし間に」(百人一首)
「思ひつつ寝ればや人の見えつらむ夢と知りせば覚めざらましを」
「色見えで移ろふものは世の中の人の心の花ぞありける」
「いとせめて恋しき時はむばたまの夜の衣をかへしてぞきる」
「うつつにはさもこそあらめ夢にさへ人めをもると見るがわびしさ」
「かぎりなき思ひのままに夜もこむ夢ぢをさへに人はとがめじ」
「夢ぢには足もやすめずかよへどもうつつにひとめ見しごとはあらず」
「うたた寝に恋しき人を見てしより夢てふものはたのみそめてき」
「秋の夜も名のみなりけりあふといへば事ぞともなく明けぬるものを」
「人にあはむ月のなきには思ひおきて胸はしり火に心やけをり」
「今はとてわが身時雨にふりぬれば事のはさへにうつろひにけり」
「秋風にあふたのみこそ悲しけれわが身むなしくなりぬと思へば」
(小町集より)
「ともすればあだなる風にさざ波のなびくてふごと我なびけとや」
「空をゆく月のひかりを雲間より見でや闇にて世ははてぬべき」
「宵々の夢のたましひ足たゆくありても待たむとぶらひにこよ」
百人一首にも選ばれている歌からも彼女はとっても美女であった事が窺えますが、男性にとって彼女は、いい女だったのでしょうか?